言葉は「お玉でボール運び」のごとく【コールセンター・言葉編】
まえがき
普段からお客様の態度に苦言を呈しておきながら、ブラックみぽりんが出てしまったことを告白する。
言葉には「取扱注意」の張り紙をしておいたほうがいい。
目次
- 「ブラックみぽりん登場」の巻
- お客様は勝手に言葉を脳内変換する
- 言葉の扱いは「お玉でボール運び」のごとく
「ブラックみぽりん登場」の巻
お客様には体温がある。
問題が大きければ大きいほど、長引けば長引くほど、熱を帯びて沸点に近づき、最終的には発火する。
本日、私のもとに舞いこんだのは、お客様に返金しなければいけないのに2か月もかかってまだ返金できていない案件だった。
すでに炎上し混沌を極めていてもおかしくなかったが、不思議なことにいまだ静謐を湛えていた。
(いまのうちに解決せねば。)
運良く沸点の高いお客様に当たったなら、仏の顔をされているうちにしれっと問題解決したほうがいい。そうでなければ、煮えたぎる地獄の釜行き急行列車に乗るハメになるからだ。
急いで履歴をさかのぼる。
(シンプルなケースなのに、なんで2か月もかかってんだ?)
順当にステップを踏んでいけば、問題なくすんなりと返金できる内容だ。しかし提携先の手続きに不備がある。そこが問題だった。
返金などお金が動く時ほど手続きは厳格になる。どこの会社もそれは同じだと思う。だれが承認したのか。金額はいくらか。きちんと記録を残しておかないと、あとでトラブルになりかねない。
先方は何度もアクションを起こしてくれていたけれど、やり方に問題があるから何百回やっても永遠に事態は進展しない。
これはもう口頭で説明しながら操作してもらったほうが早いと思い、電話をかけた。
「2か月も返金が進まず、お客様に迷惑をかけている。だからいま、この電話で解決してしまいたい。」そう説明し協力を仰いだ。すると相手がひと言。
「担当者からメールさせますので、お待ちください。」
……ん?
思わぬ答えに、一瞬フリーズ。頭のなかはハテナでいっぱい。
私の話、聞いてました?
時間がかかり過ぎてる案件だから、この電話で解決したいって言ったよね?
もしかすると私の言い方が悪かったかもしれない。深呼吸して、もう一度、丁寧に、いま、そこで操作してくれるようにお願いしてみた。
そうしたら次の回答。
「いまの時間は緊急対応のみの受付となっているため、担当者からのメールをお待ちください。次のお客様がお待ちなので。」
カッチーーーン。
一瞬にして頭に血が上った。
ほな、なにか? お前の用件は重要とちゃうから、担当者が連絡するまで黙って待っとけと言いたいわけか? ほんで、時間の無駄やから早く電話を切れと?
こっちも大事なお客様の用件で電話してんだわ。しかも2か月も返金が滞ってる案件なんよ。そちら様の手続きの不備のせいで!
それを共感も謝意の表明もなく、「担当者からのメールをお待ちください」のひと言で片付けられて納得いくと思ってんのかーーー!
と心のなかでブチ切れた。
そして捨て台詞。
「もう、結構です!」
ガチャ。
…………やっちまった。
お客様は勝手に言葉を脳内変換する
電話を切って、自分に愕然とした。
(アタシ、なにやってんの。)
これまで散々お客様の振り見てわが振りなおせと自分に言い聞かせてきたのに、この有り様だ。
しかしやっちまったものはしかたない。「自分らしくなかったな」と心を鎮めて、事の次第と解決方法をメールにしたため、担当者あてに送信した。
考えてみれば、私の心の動きはまさしくお客様の心の動きそのものではないか。
なぜ、私は頭にきたのか。
自分が望むとおりに相手が動いてくれなかったからではない。こちらが話した内容をまるで無視した返答をされたからイラッとしたのだ。
きっと彼女の頭のなかには次のようなロジックがあったはずだ。
電話がかかってきたのは「緊急対応」のみ受付可能な時間帯だ。社内規定で「緊急」とは、宿泊日当日またはチェックイン日前24時間以内の場合をいう。したがって、過去の予約は「緊急」の定義から外れており、いまの時間は電話でサポートすることができない。
彼女はそう言いたかったのだ。
しかし言葉を省略したから相手に言いたいことが伝わらず、聞き手が曲解して憤怒の火の粉が降りかかったのだ。
私にしてみれば、通常は2週間もかからない処理に2か月もかかり、お客様に多大な迷惑をかけているものは、すぐに対応すべき「緊急」案件だ。「緊急」の定義はちがうけれども。
定義や前提のズレを放置して話を進めると、話が噛み合わないどころか、会話のストレスから感情がもつれて炎上するんだなあ。
お客様の気持ちが垣間見えた。言葉を省略してはいけない。
カスタマーサポートが最初にやるべきことは『共感』だ。まず相手の用件をリキャップし、どんな気持ちになっているかを言語化して理解を示し、謝意を表明する。
これをすっ飛ばして結論だけを言うと、お客様はなんだか自分が軽く扱われたような気がして悲しい気持ちになる。わきまえたお客様なら胸の内に押し込めてくださるので事なきを得るが、そうでなければ、鬼哭啾々たるウルトラトレイルマラソンの開幕だ。
今回はお互いがサービス提供者でありパートナー関係であったため、「言わなくても分かってくれるだろう」という期待が彼女にはあったのかもしれない。
しかし彼女の物言いは私の神経を逆なでしただけだった。
それだけでなく、私に言葉の意味を脳内変換させてしまった。「火急の用件じゃない」を「お前の用件は重要じゃない」に変換し、さらに「お前は重要じゃない」と被害妄想を炸裂させて、私はキレた。
彼女が、私が人間として未熟であるがゆえのとばっちりを受けたことは、ほんとうに申し訳なく思う。
言葉の扱いは「お玉でボール運び」のごとく
過去のことはさらりと反省して、この出来事から学ばない手はない。
世のなかみんながみんなできた人間ばかりじゃない。私のように被害妄想に取り憑かれ、カオスの沼にみずから沈んでいく人もいる。その先に待ち受けるのは不幸でしかない。お客様にそちらの道を行かせてはならない。
そのためのカギとなるのは、やはり言葉。言葉の取り扱いには注意が必要だ。
「言わなくても分かってくれる」が通用するのは、熟年夫婦か、双子か、なんにせよ、親密度の高い相手くらいじゃないだろうか。
一生に一度しか出会わないお客様や、たまにしか電話で話さないビジネスパートナーにそれを期待するのは怠慢だ。
言葉は丁寧に扱わないと受け渡しに失敗する。「お玉でボール運び」のようにそっと相手に手渡すの。まちがってもポーンと適当に投げてはいけない。相手の顔面に直撃してボコられるのがオチだ。
コミュニケーションというのは、気が抜けないし、手間がかかるし、思ってる以上に体力を使う。
でもね、コミュニケーションが上手になったら、きっと人に好かれて人間関係は良くなり、仕事はうまくいくにちがいない。それで人生がハッピーにならないわけがない。
その練習ができるのがコールセンターだ。ここは『共感』のコミュニケーションの実践の場。始業から終業まで、ひたすら実地訓練をすることができる。しかもお金までもらえて一挙両得だ。
どうだろう。コールセンターで働きたくなってきたんじゃないだろうか。
あとがき
いまなおコミュニケーションに関する書籍が続々と出版されているということは、悩みを解決できないでいる人がたくさんいるということなのだろう。
コミュニケーション力を磨きたければ、みんなコールセンターで修行すればいいと思う。習うより慣れろ。知識より実践あるのみだ。
やってみて失敗して泣きを見て、自分のいたらなさに気づいて改善し成長する。その繰り返し。それでいいのだ。
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