マレーシアから海外永住 花びら餅とエロスと編集 Written by Miho Kanai

お客様、そのクレーム、受けとりません!【コールセンターでいちばん大切なマインドセット】

Essays Malaysia Thought

まえがき

マレーシア移住のためにコールセンターで働きはじめてもうすぐ3年が経つ。

最初の頃はほんとうにツラくて、でも最近ちょっと手ごたえを感じる出来事があったという話は前回の記事に書いた。

今回は、「カスタマーサポートの仕事が針のむしろでツラい」という悩みから脱却した話をツラツラと書いてみる。

もしかしたら、カスタマーサポート界の救世主になれるんじゃない?

なんてひとりで勝手に盛り上がっていたら、今日もまたお客様の言葉に傷つき、うなだれている。

「そんなにしんどいならやめたら?」なんて簡単に言ってくれるな。言われなくてもわかっている。

わかったうえで、マレーシアの就労ビザが取りやすく、そこそこ高給なこの仕事をやめたくないという損得勘定があるのだ。

やめたくないなら、なんとかするしかない。

ということで、もがき苦しんだ3年間で学んだことを書く。ちょっとは落ちこむことも減ったので、同じようにコールセンターで働くのがツラいという人の心が少しでも晴れたら幸いである。

目次

  • お客様、そのクレーム、受けとりません!【コールセンターでいちばん大切なマインドセット】
  • マインドセットをインストールする方法
  • インストール完了後の仕事風景

お客様、そのクレーム、受けとりません!【コールセンターでいちばん大切なマインドセット】

B2C(企業ではなく一般のお客様向け)のカスタマーサポートの仕事でなにがいちばんツラいって、お客様の「言葉による攻撃」ではないだろうか。

そう、あれはまさに「攻撃」以外のなにものでもない。マシンガンを無遠慮にぶっ放し、わたしの体は穴だらけ。ついでに腰回りの脂肪も吹き飛ばしてくれたらいいのに、なぜか体重は増えるばかり。

前回の記事で書いたが、注意しなければならないのは、ヘッドフォンを通じて罵声をまともに浴びてしまうとメンタルがダメージを受けるという点だ。そのせいで1週間も頭痛に悩まされたことがあるくらいだ。その威力たるや、すさまじい。

たとえ頭痛はしなくとも、心がシクシク痛くなることもある。だってカスタマーサポートの人間はまるでサンドバッグだと言わんばかりに怒りをダイレクトにぶつけてくるんだもん!

汚い言葉をわざと使い、ねちねちと嫌味を言い、電話の向こうで大声で怒鳴り、誹謗中傷や八つ当たりなんかは日常茶飯事。

怖いでしょう?

人間って、怖いのよ。

最初の頃は、心のなかで大泣き。ひとたびコールを取ったら「お電話ありがとうございまぁす♪」と明るくトーク。

アタシって、なかなかの役者なんじゃないかしらと思ったもんだ。

お客様は鬼じゃない

お客様は鬼じゃない。そんなことはわかっている。鬼の面をかぶった人間である。

渡る世間が鬼ばかりじゃないこともわかっている。ちゃあんと仏様のようなお客様もいらっしゃる。ありがたや、ありがたや。

でもね、回転寿司のようにクルクルよく回る組織を見るかぎりでは、傷つき去っていく社員たちは少なくないんじゃないかなぁと思う。心のケアをちゃんとやらなきゃダメだ。

取り扱う商品やプロジェクトによって客層が異なるので、カスタマーサポートの仕事がすべてツラいとは一概には言えない。あくまでも、一個人の経験上の見解だと思ってもらいたい。

もちろん、お客様側の立場に立ってみると「そりゃ、怒りたくもなるわー」と同情するケースもたくさんあることを申し添えておく。このエッセイは、けっしてお客様をディスるのが目的ではない。

いちばん大切なマインドセット

「たとえお客様が鬼のごとく怒り狂っていても、非難されているのはあなた自身ではない。」

このことをまず理解しておくことが大切だ。

お客様に直接的に迷惑をかけたのは、あなたではない。

迷惑をかけたのは、フライトを急遽キャンセルした航空会社であり、オーバーブッキングしてしまった宿泊施設であり、約束の時間に迎えに来なかった送迎サービス会社だ。

ハリケーンで地域一帯が停電してしまい宿泊受入不可能になるなど、自然災害が原因の場合などはだれのせいでもない。どうしようもないことだって現実には起こりうる。

だから、お客様はあなた個人を責めるために電話をかけてきているのではないことを、まずは頭で理解しなければならない。

たまにカスタマーサポートのエージェントがまちがえて予約をキャンセルしちゃうなど、やらかし案件もある。

そんなときは、やらかしてしまった仲間の代わりにひたすら電話口で謝ったりもする。

(なにやっちゃってくれてるのー!)

まあ、自分のミスをほかのエージェントが助けてくれることもあるので、お互い様なんだが。

「お客様、そのクレーム、受けとりません!」

こんなことを言うと、「客のクレームを受けとらないとは、なにごとだ!?」と憤慨する人がいるかもしれないので、補足説明しておく。

「わたしに悪口雑言ののしっても、わたしがそれを受けとらなければその悪口雑言はだれのものになる?」

お釈迦様とある異教徒の若者の話を聞いたことがあるだろうか。

「罵りに罵りで返し、怒りに怒りで報いると、与えられたものを受けとったことになる。反対に、なんとも思わなければ与えたといっても受けとったことにはならない」と、お釈迦様が若者に言ったそうな。

お客様に対して怒ったり罵ったりすることはないが、お客様が発したネガティブな言葉に傷ついたり悲しんだりすると、それを受けとったことになるんじゃないか?

ほんとうは自分が非難されているわけでもないのに、傷つき悲しみに暮れてしまうということは、自分以外の対象物に向けられたお客様のバズーカ砲の矛先を、わざわざ自分のほうにねじ曲げて、その砲弾を受けとってしまうことになるんじゃないだろうか。

お釈迦様の話を聞いて、そう思ったわけだ。当たらなくていい攻撃にみずから当たりにいくなど愚の骨頂である。

もしお客様が弾道ミサイルを発射したなら、大きな弧を描いて頭上を飛んでいくそれの行方をお客様の隣に座って一緒に眺め、「ひどい目に遭いましたね」と鬼の面の裏で悲しみに暮れるお客様に寄り添い、そっと肩を抱いてあげよう。

大切なことは、クレームを「受けとる」んじゃなくて「受けつける」ということだ。

荒ぶるお客様の怒りと悲しみを鎮めるために、クレームはクレームとしてきちんと受けつける。しかし、負のエネルギーはさらりと華麗によけてかわすのだ。

そうすれば、自分の持てるエネルギーを傷ついた心の修復に使うのではなく、お客様のサポートに余すところなく使うことができる。

マインドセットをインストールする方法

「たとえお客様が鬼のごとく怒り狂っていても、非難されているのはあなた自身ではない。」

カスタマーサポートとして仕事をするうえで、このマインドセットがいちばん大切だと書いた。

電話応対だと1対1のやり取りになるため、まるで自分が責められているかのような錯覚に陥りがちだ。そのため、お客様の誹謗、中傷、罵倒が全部自分に向けられたものだと勘違いするおそれがある。

一日8時間、週5日、そんな状態だとしたらどうだろう。どれほどの苦しみかは想像にかたくない。そりゃ、やめたくもなるさ。

だから、健全な状態でお客様にご満足いただけるサポートを提供し、ついでにいい成績を収めてボーナスもゲットするための合言葉がこれなのだ。

「お客様、そのクレーム、受けとりません!」

マインドセットをインストールする方法

では、どうやって負のエネルギーをさらりと華麗によけてかわすためのマインドセットを自分にインストールすればいいのか。

残念ながらアップルさんはやってくれないので、あなたは自分でそれをやらなきゃいけない。

「たとえお客様が鬼のごとく怒り狂っていても、非難されているのはあなた自身ではない。」

マインドセットのインストールは口で言うほど簡単ではない。やはり電話口で相手が怒っていると、どうしてもシュンとなってしまう。

そして、大変申し訳ないが、こうすれば瞬時にマインドセットをインストールできるという方法を本エッセイで提供することはできない。そんな方法があったら、わたしも知りたい。

では、わたしが実際にどうやったかというと、ことあるごとに自分に繰り返し言い聞かせたのだ。

お客様からクレームの電話がかかってきて、怒鳴られ、なじられて、心がしおれてしまうたびに、こう思い直した。

「この非難はわたしのものではない。お客様の隣に立って、お客様と同じ方向を向こう。お客様の気持ちを手に取り、いましてあげられることに集中しよう。」

マインドは劇的に変わったりしないが、何度も何度も繰り返し考えているうちに、次第に無意識レベルにその思考パターンが浸透し、よい方向へ変わっていく。

カスタマーサポートに求められるコミュニケーション能力

前回の記事で、毎コールの実践を通じて次のコミュニケーション能力が鍛えられると書いた。

  • クレームの根本原因を探る
  • 相手に共感を示す
  • ポジティブな言葉を意識的に使う
  • 相手を説得する
  • 代替案を考える
  • 常に冷静さを保つ
  • 自分の感情をコントロールする

これらの実践は、お客様の言葉にいちいちショックを受けて意識が内向きになっていてはできない。

いきなりお客様の怒声が飛びこんできたなら、いったん深呼吸をして冷静さを取り戻すことからはじめよう。深刻になる必要はない。まずは自分の感情をコントロールすることが不可欠だ。

そうしてお客様の話によく耳を傾け、状況把握クレームの根本原因を探っていく。

電話のなかで怒り狂っていたとしても、日常のなかでは案外面倒見のいい好青年だったり、愛犬とおだやかに暮らすおばさんだったり、娘に邪険にされてちょっとかわいそうなお父さんだったりするかもしれない。

ただ、ものごとがうまくいかずに、話を聞いてくれるだれかに不満を訴えたいだけなのかもしれないのだ。

井戸端会議のお相手や愚痴の聞き役を拝命したなら、その役目を一生懸命に務めるのがわたしたちの仕事だ。たぶん。

たまに、「お客さん、それはあんたが悪いよ」と言いたくなるケースもある。言うべきことは言わなければならないが、だからといって、お客様の責任にしてしまってはお客様の立つ瀬がない。

お客様は自分のリクエストの妥当性をこれっぽっちも疑っちゃいないので、こちらがお客様の非を指摘しようものなら、その非難は10倍になって返ってくる。適切なトーンで共感を示していくことが大切だ。

また、航空会社や宿泊施設などのパートナーに責任を押しつけるのもよろしくない。そんなことをすれば、お客様からしたらわたしたちが責任転嫁しようとしているとしか見えず、お客様のお気持ちが晴れることはない。

自社のサービスやポリシーがおかしいと自分たちを卑下し、お客様に媚びるのもダメだ。お客様はそんなことは望んじゃいない。

わたしたちがすべきことは、状況を改善するためにできることはなにかを考え、前向きなコミュニケーションで「これからできること」にお客様の意識を集中させることだ。

そして、できることはすべてやっていることをお客様に伝えて、結果に納得してもらうように努めなければならない。常にお客様の要望が通るわけではないため、できるかぎりの代替案を考えて提案することもときには必要だ。

最後に、どんなときも礼儀正しく接することをつけ加えておく。これはどんな職業であってもプロフェッショナルとして当然の姿勢だ。

お客様は自分の振る舞いはすぐに忘れてしまうが、あなたの振る舞いを忘れることはけっしてない。そのことを胸に刻んでおこう。

自分の心の傷に気を取られていては、前向きで効果的なコミュニケーションを実践することなどできない。さっさと自分の心にプロテクトプログラムをインストールし、適切なマインドをセット完了してしまおう。わたしたちの仕事は、そこからはじまる。

インストール完了後の仕事風景

お客様:「宿泊施設に到着したのに、入口が閉まっていて入れないんだけど!」

わたし:「宿泊施設の入口が閉まっており、チェックインができないとのことでございますね。大変ご迷惑をおかけしており…」

お客様:「こんな夜遅くに寒空のした、どうしろって言うのよ!」

(焦らない、焦らない。お客様は宿泊施設に入れないという不安からパニックになっているだけ。まずは現状把握が大事。)

わたし:「現地時刻は深夜の2時頃かと存じますが、お客様がご到着されたのはいつ頃のことでございますか?」

お客様:「15分くらい前よ。さっさとチェックインさせなさいよ!」

(深夜0時を過ぎてからの到着。この施設のチェックイン受付時間はとうに終了している。ああ、いやな予感。)

わたし:「恐れ入りますが、こちらの宿泊施設はチェックインの受付が夜23時までとなっております。いまから宿泊施設に…」

お客様:「そんなこと、知らないわよ! ○※△%□#&!!!」

(いや、知らないじゃないよ。チェックイン時間をあらかじめ調べておくのもお客様の義務だよ?)

わたし:「お客様、いまから宿泊施設にお電話しまして、受け入れが可能かどうか確認いたしますので、保留にて少々お待ちいた…」

お客様:「こっちは寒いのよ! ○※△%□#&!!!」

わたし:「すぐに宿泊施設に連絡を取りますので、恐れ入りますが、少々お待ちくださいませ」

保留にするのも一苦労である。

深夜便で到着するなら、24時間対応のフロントデスクのあるホテルを予約したほうがいい。民泊のような宿泊施設だと、オーナーとすぐに連絡が取れるわけではなく、緊急時の対応が遅れがちだ。

そもそも今回の宿泊施設は夜23時にチェックインが終了するとハウスルールに明記されている。完全にお客様の落ち度である。

それでも一縷の望みをかけて電話をかける。できることは全部やる。それがわたしたちのプロ根性だ。

でも、たいていはオーナーに連絡がつかない。そりゃ、そうだ。深夜2時だよ? みんな寝てるわ。

見込みのない選択肢はさっさと捨てて、次のステップに移る。お客様の現在地をGoogle Mapsに入力し、周辺の宿泊施設にかたっぱしから電話をかけていく。今夜の宿を見つけるお手伝いをして差し上げるのだ。

お客様が自分で代替施設を見つけられればいいが、深夜ではなにかと不自由だろう。電話代もかかるし、バッテリーの心配もある。

電話の向こうで発狂しているお客様をなんとかなだめすかしながら、深夜の寒空のした、不安を抱えながら途方に暮れるお気持ちに共感を示したら、いったん電話を置いて、Google Mapsとにらめっこ。

なんとしてでもお客様に今夜お休みいただけるホテルを見つけてあげなくては!

ミッションスタートだ。

あとがき

最初の頃に比べると、お客様が怒っていても冷静に対処できるようになってきた。

しかし、お客様のリクエストに完璧に応えることは現実的には不可能であり、「無理です」と言わざるをえないケースもたくさんあって、終わりの見えない愚痴や文句、非難、罵詈雑言を拝受せざるをえないケースは気が重い。

それでもわたしたちは消防士さながらお客様の救助のために火のなかに飛びこんでいく。少しでも気持ちが晴れればと、お客様の黒い胸の内から吐きだされる吐瀉物を甘んじて頭からかぶりもする。

できることは全部やり、聞くに堪えないことも黙って聞き、それでもお客様が結果に納得することなく捨て台詞とともにお電話をお切りになるときは、正直くやしい。

前向きなトークができていないのが敗因なのだろうか。どうして差し上げればいいのか、いまだにわからない。

リクエストが絶対にかなえられないと確定している状態で相手に納得してもらうには、どうすればいいのか。

みなさんなら、どうする?

毎コールがお客様との一期一会の出会いであり、泣き笑いのドラマがいっぱい。カスタマーサポートの仕事は電話で怒られるだけのしょうもない仕事ではけっしてない。

いま一度、お客様はわたしたちと同じ人間であることを思いだそう。たまに鬼の面を装着していらっしゃることがあるが、なんら恐るるに足らない。

適切なマインドセットをインストールして、臆することなくお客様と対峙しよう。そうすれば、遅かれ早かれ針のむしろから脱出することができるだろう。

そして自分に自信をもつことだ。なんといっても、わたしたちは高度なコミュニケーション能力を駆使して戦いに挑む、精鋭ぞろいの強者集団なのだから。

カスタマーサポートの実態についてより深く知りたい人は、こちらもご参考にどうぞ。
≫コールセンターの実態に迫る!【メルミの事件簿】0話〜5話