コールセンターの仕事は「最初に笑っとかないと、もう笑うトコないよ」【マレーシア】
まえがき
マレーシアで暮らすには、現地のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)企業が求人募集するコールセンターの仕事で就労ビザを取得するのが手っ取り早い。
英語力不問の求人もあっておすすめなのだが、こうして日本から移住してくる人たちの多くは、別の業界や職種から転職してくるわけで、ほかに選択肢がないから仕方なしにカスタマーサポートの仕事に就くことになる。
すると、現場ではじめてカスタマーサポートという仕事の過酷な一面を目の当たりにすることになり、面食らい、絶望して去っていく人が後を絶たない。
どうしても自分には無理だと思ったら「逃げるが勝ち」だが、ここでがんばると決めたなら、泣き言ばかりも言っていられない。
プロフェッショナルな対応をしつつ、仕事も楽しみたい。
「どうしたらコールセンターで喜んで働けるだろうか?」
こんな問いについて考えていたある時、ふと気づいた。
問いの立て方を間違えていないか?
目次
- 問いの立て方を間違えていないか?
- 最初に笑っとかないと、もう笑うトコないよ
- 自分が変わるとお客様が変わる
問いの立て方を間違えていないか?
「カスタマーサポート」と一口に言っても、仕事内容によって大変さにはグラデーションがある。
私の場合は電話対応がメイン業務となるため、お客様から直にお叱りやそしりを受けることがあり、対応のむずかしさを日々感じている。
以前は人事などの管理部門にいたので、顧客企業や金融機関、行政、弁護士など、いわゆる「お行儀の良い人種」を相手にしていた。
だから、会ったこともない人から電話口で怒鳴られるとか、あやうく人間不信に陥るところだった。接客業って、ほんとうに大変。
仕事と割りきって適当にやり過ごすこともできるけれど、どうせやるならカスタマーサポート界の最高峰を目指してみたい。
そのうえで楽しく働く。だって楽しくないと、声で相手にダイレクトに伝わっちゃうから。
では、「どうしたらコールセンターで喜んで働けるだろうか?」
根がまじめな性分なので、まじめに考えた。考えているうちに、ふと本で読んだ言葉を思い出した。
脳は前提を現実化しようとする。
たとえば、「健康になりたい」と願うと、「いまはそうではない」という前提が存在することになる。
すると脳は「いまは健康ではない」という前提のほうを現実化しようとするため、いつまでも健康になれない。脳にはそうした性質があるそうだ。
つまり、「どうしたらコールセンターで喜んで働けるだろうか?」と考えているかぎり、「喜んで働けない」状態が実現してしまうことになる。
(なんてこった! 仕事が楽しくなかったのは、ほかでもない、自分に原因があったのか!)
それだけではない。自分が楽しく働けないばかりか、「今日もお客様に叱られるのかな。いやだな。」と、憂鬱なオーラを身にまとった私がお客様をご案内していたのは、花咲き乱れる楽園ではなく、地獄の日帰り鬼哭ツアーだったかもしれない。
「お客様の心の救いになるために、もっとほかになにができるだろうか?」
正しい問いは、「お客様のためにできることがもっとある」からはじめなければならなかったのだ。
最初に笑っとかないと、もう笑うトコないよ
「お客様のためにできることがもっとある」を前提にすると、途端に脳がクリエイティブに動き出す。
お客様のリクエストをかなえたり、問題を解決したりするのは当たり前。その大前提として、お客様の話をちゃんと聴くことはとても大切だ。これだけでもお客様は満足を感じてくださるかもしれない。
しかし、「お客様のためにできることがもっとある」はずだ。
自分自身の過去のカスタマーサポート体験を振り返ってみると、元気がなく不機嫌そうな声で電話に出られた時には、思わず電話を切ってしまいたくなったことがある。
(ナニかに絶望していらっしゃる?)
カスタマーサポートとして電話対応に慣れた私でさえイラッとするのだ。ふつうのお客様がいかほどの精神的苦痛を与えられているのかは察するに余りある。
だから1オクターブ高い声で、明朗快活、元気ハツラツで明るく電話に出よう。
もしかすると最初のあいさつが「笑声」で話す唯一のタイミングかもしれない。
お客様は不安と心配を抱えて電話をかけてくる。すべてのリクエストをかなえて差し上げることができたらいいが、そうもいかない。
自分の希望が通らないことをお客様が悟った時、電話の向こうで一縷の望みがガラガラと音を立てて崩れ落ちるのが聞こえるようだ。
こうなるともう「笑声」は使えず、神妙にするしかない。
「ここで笑わないと、もう笑うトコないよ」でお茶の間を爆笑させてくれた、兄弟漫才コンビの酒井くにお・とおるさんの自虐ネタのように、お客様の電話対応も「最初に笑っとかないと、もう笑うトコないよ」。
自分が変わるとお客様が変わる
お客様のすべてのリクエストをかなえて差し上げたいが、そうは問屋が卸さない。
だから、「共感」が大切だ。お客様の絶望を、悲しみを、やるせなさを、理解を示して受けとめてあげるのだ。
たとえ受けとめきれなくても、私たちの話し方や声のトーンによっては、荒ぶった気持ちが落ち着くこともあるだろう。
自分のリクエストは通らなかったけれど、カスタマーサポートのお姉さんの感じがよかったから、ここはおとなしく引き下がろう。そんな経験をしたことはないだろうか。
気持ちの良い、明朗快活な受け答えは、お客様の心の救いになるかもしれない。
せめて最初のあいさつだけでも、明るく朗らかに電話に出よう。
こんな気持ちで仕事をしていると、最近お客様の反応が変わってきたのを感じる。
なんと最初のあいさつで「よろしくお願いします」と言ってくださる方が増えたのだ。こんな丁寧なあいさつを返してもらったのは、過去4年間ではじめてだ。
また電話対応の締めくくりの場面でも、お客様の反応の変化をじわりと感じる。
以前のお客様の反応はこんな感じだった。
私「その他になにかご不明な点はございま……」
客「ありません。(ガチャ。ツーツー)」
(あの、せめて、最後までセリフを言わせてもらえますか?)
ここまでそっけないお客様は少ないけれど、だいたいまあこんな感じである。
それがなんと、締めのセリフを最後まで言わせてくれるだけでなく、対応への御礼の言葉とともに、「お世話になりました」とまで言ってくれるようになった。
もちろん、非常に複雑で解決まで時間がかかっているケースなどは、喧嘩別れのように捨て台詞を吐かれて、電話を切られることもある。
それでも、「よろしくお願いします」「お世話になりました」と言葉にしてくださるお客様がひとりでも増えたことは、長年、顧客対応に悩んできた私にとってはとてつもない前進だ。
自分が変わると、お客様が変わる。
他人と過去は変えられないと言うけれど、自分が変わることで、他人も影響を受けて変わることがあるんだなあ。
あとがき
私のなかでは、残念ながらカスタマーサポートはイライラするものと相場が決まっている。
自動音声の無限ループの沼にはまって抜け出せなかったり、担当者に電話がつながるまで相当時間がかかったり、電話がつながったらつながったで、やる気の感じられない第一声にガックリと肩を落とすハメになる。
お客様の立場とカスタマーサポートの立場の両方を経験したいま、不機嫌な担当者たちの気苦労を思い、心から同情するが、正直に言って気分が悪い。
明るく元気なあいさつをしよう。
コミュニケーションの基本的マナーである。むずかしくないはずだ。だって小学校で最初に習うことだから。
人のふり見て我がふり直せ。
さあ、深呼吸して、最高の笑声でお客様をお迎えしよう。
参考書籍
本文で触れた「脳は前提を現実化しようとする」話は、こちらの本で少し触れてあります。自分が思うとおりの人生を送るためのヒントが満載のおすすめの一冊です。
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