マレーシアから海外永住 花びら餅とエロスと編集 Written by Miho Kanai

ディズニーが足元にも及ばない職業【コールセンター・仕事の価値編】

Essays

まえがき

みなさんは、YouTube講演家の鴨頭嘉人さんをご存知だろうか。

風貌は頭ツルツル、いつも満面の笑みで「あやしい団体の教祖?」と身構えてしまうけれど、実は元マクドナルドの伝説の凄腕店長だ。

彼はいま講演家として独立し、「サービス業で世のなかを変える!」と宣言しているので、私は「コールセンターで幸せを撒き散らす!」と勝手に対抗意識を燃やしている。

そんな鴨頭さんの動画を観ていて、カスタマーサポートの仕事は実はディズニーを超える仕事なんだと気づいた。

目次

  • 「マックでいいか」どころじゃない
  • ヒーローの仕事
  • 価値は自分が決める

「マックでいいか」どころじゃない

くだんの動画は、YouTube講演家の鴨頭嘉人さんが『仕事の価値』について語った内容になっている。

本論はあとで取り上げるとして、まずこの動画で紹介されていた看過できないエピソードについて書かなければはじまらない。

ある講演会後のQ&Aで、参加者のひとりが鴨頭さんにこんなことを質問したそうだ。

「マクドナルドみたいな客単価の低いところで働いていて、サービスの限界を感じませんか?」

講演会には、リッツ・カールトンやディズニーなど、ホスピタリティの最高峰と謳われる現場で働く人たちも参加していて、なるほどそういう人たちからすると、客単価が低いと提供できるサービスに限界があるんじゃないかと思ったわけだ。

ザ・リッツ・カールトン大阪には有名な逸話がある。宿泊客の忘れ物を、従業員が新幹線に飛び乗って東京まで届けに行った話だ。

こんなことが可能なのは、リッツ・カールトンの現場スタッフに決裁権が与えられているからにほかならない。たかだか往復3万円ほどの新幹線代など、ロイヤルカスタマーを獲得する費用に比べれば、彼らにとっては安い投資なのだろう。

ところが、マクドナルドがこれと同じことをやったら会社は大赤字になる。決裁権限に制約があるとゲストのためにやってあげたいことが実現できないんじゃないか。リッツ・カールトンのような超高級サービスを提供する現場で働く社員がそう考えてもおかしくない。

「マクドナルドみたいな客単価の低いところで働いていて、サービスの限界を感じませんか?」

鴨頭さんはこの質問に自分で答える代わりに、ちょうど講演会を聴きに来ていたマクドナルドのアルバイト社員の女の子に「どう思う?」と話を振ってみたそうだ。

すると、彼女はこう答えた。

「私は、マクドナルドの仕事はリッツやディズニーよりレベルの高い仕事だと思います!」

ん?

講演会に参加していたリッツ・カールトンやディズニーの社員たちは色めきたったにちがいない。

会場のどよめきをよそに、マクドナルドのアルバイト社員の女の子は続ける。

「だって、リッツやディズニーに来るお客様は、来る前から喜んでるでしょ。」

まあ、そうだろう。

ザ・リッツ・カールトンホテルに宿泊する人たちは、最高級のおもてなしに期待感と高揚感を抱いて訪れるだろうし、ディズニーリゾートを訪れる人たちは、家を出る瞬間から、なんならもう1週間も前からすでにワクワクしているだろう。

「今日はハッピーになるって決めているお客様をハッピーにするのは簡単でしょ。でも、マックは違う。『マックでいいか』というお客様がほとんど。その『マックでいいか』というお客様を100円でハッピーにするのが、私たちの仕事です!」

よく言った!

そうだ。はじめから自分でハッピーになると決めている人をハッピーにするのは、そうむずかしい話じゃない。

しかもリッツ・カールトンには顧客満足のために使える潤沢な資金があり、現場のスタッフが決裁権を持っている。ディズニーにいたっては、わざわざこちらが手を貸さなくても、お客様は自分で勝手に鼠の耳を装着してハッピーになってくれるのだ。

そんな夢のような世界では、幸福な世界観を維持するために、お客様みずからが進んでサービス提供者側に協力していないだろうか。

なんといういたわりと愛情だろう。

かたやコールセンターで働く私たちの仕事はどうだろう。

みなさんはどんな時に、どんな気持ちでカスタマーサポートに電話をかけるだろうか。想像してみてほしい。

それは、「マックでいいか」どころじゃない。

「マックでいいか」という言葉には、少しなりともお客様の好ましい気持ちが含まれている。心底いやなのに「マックでいいか」と食べに来る人はいない。ほんとうにいやだと思う人はそもそも来店しない。

でもカスタマーサポートに電話をかけてくるお客様は、「なんで自分がこんなひどい目に遭わされなきゃいけないんだ。こんちくしょう」と思いながら電話をかけてくる。

まるで地獄のふたが開いて背後に百鬼夜行を引き連れたお客様の様子が電話の向こうに見えるようだ。

私たちの仕事は、いつもたいてい絶対零度の世界からスタートする。そんな世界で、どれだけお客様の要望に応え、お気持ちを発散させてあげられるかに挑んでいるのだ。だから事故ることも多い。

カスタマーサポートの仕事は、「マックでいいか」どころじゃない。リッツ・カールトンやディズニーが足元にも及ばない、難易度MAXの仕事なのだ。

ヒーローの仕事

さて、自分たちの仕事の偉大さを自画自賛したところで、本論である『仕事の価値』について、動画で語られた内容の一部をかいつまんで紹介しよう。

鴨さんは動画を通じて、仕事の価値というものをどうとらえればいいのかを教えてくれる。仕事の価値の本質は、低い抽象度で見ていてはけっして見えてこないのだと学んだ。

たとえば、スターバックス。コーヒーとフードを売るのが彼らの仕事だ。でも、それは本質じゃない。

彼らのほんとうの仕事は「空間創造業」だ。そう自分たちで定義したから、店内はオシャレな内装で、トイレは清潔感にあふれ、スタッフはいつも笑顔を絶やさないのだ。

タクシー運転手はどうだろう。もちろんタクシーを運転してお客様を目的地に連れて行くことが彼らの仕事だ。そこからちょっと抽象度を上げてみよう。

日本では、タクシーは日常的に利用する移動手段ではない。悪天候や具合の悪い時、荷物をたくさん持っている時、高齢者で歩くのが困難な時など、困った時に利用するのがタクシーだ。

だったらタクシー運転手は、「世のなかの困った人を助けるスーパーヒーロー」だよね、と鴨さんは言う。

コンビニの店員さんはどうだろう。

鴨さんいわく、朝いちばんに「おはようございます!」と挨拶し、夜帰宅する時に「本日も一日、お疲れさまでした!」と挨拶してくれる彼らは「日本人の第二の家族」なんだそうだ。

池袋の街でゴミ拾いをしている青年がいる。彼は最初、鴨さんにこう言ったそうだ。「ゴミ拾いなんて、最低な仕事ですよ。」

ゴミは汚いし、臭い。たくさんのゴミ袋を台車に乗せれば重くもなるだろう。意外と重労働なのかもしれない。花形の職業には見えない。

でも、彼らがいなければ、街はゴミであふれる。ゴミがあふれると、道行く人たちは不快な気持ちになる。ということは、ゴミ拾いの仕事は最低な仕事どころか、「街の環境創造業」という大役をになう仕事だと言える。

毎朝キオスクで「おはようございます!」と明るく元気な挨拶をする若い女の子がいたそうだ。せわしない朝の時間。通勤ラッシュに気も滅入る。そんな時に笑顔で元気よく挨拶してくれたら、もうそれだけで陰鬱とした心が晴れ晴れとしそうだ。

しかも彼女が挨拶していたのはキオスクのお客様だけではなかった。キオスクの前を通りかかる駅利用客の全員に声をかけていたのだ。

「おはようございます!」
「行ってらっしゃいませ!」
「本日も一日頑張ってください!」

彼女が「街の挨拶リーダー」であることは疑いようがない。

価値は自分が決める

カスタマーサポートの仕事はリッツ・カールトンやディズニーが足元にも及ばない仕事だと書いた。しかし職業に順位づけをしたいわけではない。そんなことをしても意味はないことは分かっている。だから私に説教をするのはやめてほしい。

そうではなくて、ただ、マクドナルドのアルバイト社員の女の子が、私に自分たちの仕事の価値に気づかせてくれたこと、私たちのやっていることにはすごい価値があるんだってことを書きたかった。

いまの仕事のおかげで私はマレーシア移住を果たせたので、そのことには感謝しかないんだが、どうしてAIに代替されないのか不思議でならない。

AIにやらせれば、文句は言い放題、暴言は吐き放題。相手には感情がないから、だれも傷つかない。双方にとってWin-Winじゃないか。でも、なかなかそうはならない。

それはきっと、みなさんが人間と話したいというニーズを持っているからだろう。

私たちカスタマーサポートなら、自分の話を聞いてくれる。自分の話に共感し気持ちを静めてくれる。寄り添ってくれる。ハッピーになる手助けをしてくれる。

そう思うからじゃないだろうか。

私たちの仕事は単なるクレーム処理班などではなく、トラブルを解決して人をハッピーにできる「幸せクリエイター」なのだ。

自分でそう思ったら、そう。

仕事の価値は、自分が決める。

あとがき

働くことは、生きること。

つまらない仕事なんてない。

仕事にどう向き合うのか。そうした姿勢が仕事をおもしろくしたり、つまらなくしたりするんだ。

喜んで働けないなんて人生の無駄遣い。

そんなことを学んだ動画だった。

いまの職場で最高を目指す私は、最高に美しいのだ。

参考動画

仕事が辛い、辞めたい…と感じたときに見るセミナー

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